<人間速寫513>
(2010年5月4日・晴、13:10〜17:20、モデル:Kさん・・・30歳女性〜インターネットで応募の美術モデルNo.289)
GWは個人クロッキーには最適の季節である。クロッキーといえば通常は室内、人工照明の中で行われるが、私は極力自然光を利用する。人の肌が一番美しい色で明るく見えるのは自然光、室内よりも半野外のバルコニーで描くのが最適である。無論寒い時期は外には出られず、真夏では暑すぎて直射光は使えない。日差しは強いが気温が適切なこの時期、貴重な時間は制作を休むのが惜しいくらいである。特に今年は連日の晴天、例年一部は雨天になるのだが、今年の天候は好ましく、先月の寒気がまるでなかったかのように心地よい天候が続く。
私たちは当たり前のように人の裸体を目の当たりにして人体をモチーフとした制作を行っている。モデルも当たり前のように裸になって静止しポーズを提供する。造形に携わる者にとって当たり前の行為であるが、それ以外の人々には未知の世界、不思議な世界であろう。造形の現場では当たり前の裸であるが、人が衣服を取り去って裸になるというのは「一大事」ではある。日頃入浴する場合も裸だが、他人から凝視される訳ではない。
その「一大事」に挑むのはKさん、美術モデルをするのは初めて、もちろん新規の方である。関東内からだが、一泊を要するほどの遠方からの来訪である。相当の遠方からの応募はモデルに関してのモチベーションは高く、モデルは初めてであってもよい結果をもたらす。
Kさんは先の一大事に関して直前に不安や緊張の気持ちを明らかにしてきた。緊張のあまり「体調」まで変わってしまったとのこと。だが、漫然とモデルに来られるよりも緊張感のあった方が私の経験上よい結果をもたらす。
モデル制作の現場はもとより造形の経験もないKさんなので、ポーズは私が指導する。具体的に私が身体を使って指示するのが一番わかりやすいが、Kさんには下半身の固定を先にして付随する上半身の形態をその後に付け加えた方がよくわかるようだった。事前に緊張を高めていたKさんだが、裸になってしまえば何のことはないという事後談。ポーズを決めれば堂々としたもので、一点を凝視する視線も鋭くカッコいい。美術モデル初めてとは思えないほど決まるのである。筋力を使う相当に苦痛なポーズでも表情は変わらない。
Kさんは小柄であるが美術モデルに相応しい豊かな体躯である。身体の塊が曲げられ捻られクビレを創っていく。自然光を浴びた身体から様々な色彩が生まれて美しい。
まだまだ描けそうな気持ちで描き続けるうちに陽も傾く。今日の制作も成功であった。遠方から足を運ばれたKさんのお陰である。屈託なくモデルについて質問してくださったKさんの人柄も制作にプラスに作用した。
Kさんは職業モデル希望とのこと、居住地が都内から遠隔地というハンディキャップがあるが持ち前の意欲で初心を貫いてほしい。
60点のクロッキー、掲載は8,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,25.26,28,29,30,31,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,46,47,48,49,50,51,53,54,55,58,60点目のクロッキー、38点。
| モデル Kさん 感想メール1 |
| 昨日は貴重な時間をありがとうございました。 11日深夜のメールから始まりました初の美術モデル体験は、私にとって文字通りに“体当たりの挑戦”でした。 “美術モデル”の仕事が小説や漫画の世界で読んだ事のある漠然としたものだった昔。 興味が現実味を帯び、インターネットで調べ始めた数ヶ月前。 『美術モデル研究室』の発見。 初めての問い合わせメールと返信。 制作日が決定してから前夜までの揺らぎ。 探究または探求、緊張や焦り、体力的な不安、解らない事さえも判らないもどかしさ。 …そして、K駅へ。 私の心身には、Sさんに直接お会いする瞬間に至るまでの3週間でさえ、数々のチャプターが存在しておりましたが、 制作現場に足を踏み入れてから夕刻の60ポーズ目までの約6時間は、それを遥かに上回る刺激の繰り返しでした。 “私の身に目に見えて起きた事”は、制作者でありますSさん自身が誰よりも御存知ですが、 “私の心の中”は、私自身でさえも何が起きたのか筆舌にし難いものです。 クロッキーが1枚、また1枚と描かれる度に嬉しくて笑みが浮かんだ事。 また制作の現場に参加をしたい気持ち。 Sさんの仰いました“心地良い疲れ”という言葉を身を以て体感した事。 帰りの列車で箇条書きにしたメモを感想にしてメール送信するだけでは、あっさりし過ぎてしまうので、 また改めて、感じた事を色々と送りたいと思っております。 |
| モデル Kさん 感想メール2 |
| 先日は、貴重な御時間の中での熱意ある御指導の数々、そして何より、一期一会の制作の場面に携わる事への充実感や喜びをありがとうございました。 私は制作の翌日、昼間は上野の寄席に、夜は懇意にして下さっている噺家さんと浅草で待ち合わせをし、川沿い散歩をしておりました。 吾妻橋〜両国橋のコースは今まで何度も歩いた道中ではありましたが、傍らに置かれた歪な岩を見つめ、 (この上で寝ポーズを取ったら面白い構図になるかしら・) と考えてみる等、制作前には想像のつかない物の見方をする自分に、驚くやら笑いが込み上げるやら…といった不思議な感覚が芽生えておりました。 私は、現在の年齢まで一度も独り暮らしの経験がありませんし、進学・就職は、ずっと地元でした。 勉強やスポーツは、平均を下回る事が当たり前で、人と競い合う場面を嫌い、社会人になる頃も“資格を生かしプロ意識を持った就職を”…と力んだ目標を抱く事も無く、良くも悪くもマイペースな生き方をモットーとして参りました。 美術モデル経験後の今でさえも、その気持ちに大きな変化はございませんが、こんな私で良ければ、また2回、3回と、絵の世界に関わる場面を重ね、美術モデルとしての経験を積んでいきたいと切に願っております。 実用的なポーズや知識、上野の美術モデル事務所についての情報、平日にクロッキーモデルの仕事が出来る場所、顔を描かれるデッサンモデルの仕事etc、知りたい事や挑戦してみたい事も滾々と湧き出しております。 人間の表現方法は十人十色で、時を重ねれば、一人に一つだった精神もバリエーションに富んで来る可能性があります。 その表現方法は例えば、 絵であったり、写真であったり、音であったり、歌であったり、文字であったり、スポーツであったり、味であったり、身なりであったり。 “では貴女は、何?” と、私が問われれば、 “私は瞬間に惹かれている誰かの、その情熱に出逢い、そして立ち合う事” と答えたいと思います。 言っている私でさえも解った様な…解らない様な、“ならば解らない事が薄ボンヤリと解って頂ければ、是幸い”といった、限り無く人任せな自己表現と自己愛に気が付きました…という、ひとつの想いをSさんにお伝えし、纏まらない文面で誠に恐縮ではございますが、私の感想文と致します。 長文を読んで下さり、ありがとうございました。 また、制作の場面に関わる日を願っております。 |