<人間速寫494>
(2010年1月24日・晴、12:55〜17:35、モデル:Tさん・・・25歳女性〜インターネットで応募の美術モデルNo.279)
私の応募モデルの地域の対象は関東地区であるが、遠方の他の地方から出かけてくださる方も少なくない。遠方の方は距離というハードルを越えてまでモデルをしてくださる故、美術モデルへのモチベーションは相当に高い方が多く、制作もとてもうまくいくことが多い。また相当な遠方の方は泊まりがけで来られるが、今日来てくださったTさんは関東内で最も遠方から来てくださった。駅間の電車の乗り継ぎでも4時間近く、距離にして160キロ以上の移動である。
美術モデル応募最初の問い合わせでも極めて丁寧で真摯な内容で、Tさんの人柄・意欲の高さが十二分に伺えるものであった。また今日のスケジュールが確定したのは12月の初旬、8週間近くを今日のために待ってくださったわけだが、相当長い期間が待てるというのもTさんのモチベーションの高さ・意志の強さが反映されたものであろう。
この季節は寒気の底、快晴が続くが冷え込みは相当に強くTさんの地域よりも相当に気温は低いと思われる。厚く着込んだTさんだったが、ポーズのため脱衣すると目映いほどの色白の素肌が露わになる。プロポーションもメリハリがあり、顔が小さくほぼ八等身、下肢も真っ直ぐでとても足が長く見える。Tさんにとって美術モデルは初体験とのことだが、このような美しい身体がどうして今まで隠されていたのかと思う。色白の顔つき(お化粧はしていないとのこと)も美術モデルとしての雰囲気があり、顔・身体ともに美人さんといえよう。
Tさんはモデルの経験はもとより、造形の経験もないためポーズは私がつける。短時間のクロッキーのポーズは如何なるものか、私のクロッキーの方向性、そのための様々な小道具〜ポーズを補助するため〜の扱い方を指導する。33ポーズまではその方法でクロッキーを進めたが、Tさんは自分でポーズを作りたくて仕方がないという様子が伺われ、もちろん私はTさんにポーズをお任せすることとした。自身の身体を自身によって自由に扱った方がよい結果(ポーズ)を生むのは自明である。
Tさんは自身の美を予め熟知しているようにその美を最大に生かすようなポーズを編み出していく。美術モデルは初めてにもかかわらず勘のよさは抜群である。モデルについては無垢の状態から、私の志向を100パーセント生かしポーズとして視覚化しているのである。ポーズ前は穏やかで静かな印象のTさんだったが、ポーズが始まると別人のように強烈に主張・表現してくる〜無言のポーズからの主張が。何がTさんにそうさせるのか、主張・表現の源泉は何なのだろうか?
描いたクロッキーはポーズ毎にTさんに見ていただく。「キレイ!」というTさんの言葉は描く私にとってとても嬉しいし気持ちが揺り動かされるというものである。ポーズを終わり次の動作に移行する無意識のポーズ、ポーズを探っている途中の動作も美しい。
今日は快晴、陽光も力強くなってきたようで、自然光の当たったTさんの肢体は一層美しく輝く。ガラス一枚隔てた外界は冷え切っているものの、強力な暖房の中でのポーズでTさんの身体は熱の塊のようだ。
16時で予定時間となるが、私とTさんの意欲は止めることができずさらに時間延長しての制作である。陽光も赤くなり蔭っていく。53ポーズ以降はスポット光を当ててポーズである。全く違う身体のようにフォルムが大きく変化する。体表上に現れた強烈な陰影とその優美な表情は女性ならではのものである。
制作者とモデルは制作の場面において、お互い「共感」がなければ良いものは生み出せない。Tさんとの共感関係によってクロッキーは益々力強く生命感の漲るものに変化していく。
エンドレスで描けそうな予感がしたものの、Tさんが今日中に帰宅できるように配慮しなくてはならない。名残惜しいが今日の制作は終えなくてはならない。
71ポーズ目がラスト。ツボに填ったクロッキーが多く、掲載にあたって割愛するのは忍びない。掲載数は57点。6,8,9,10,11,12,14,15,16,18,20,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,34,35,37,38,39,40,41,42,43,44,47,48,49,50,51,52,53,54,55,56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66,67,68,69,70,71点目のクロッキー。
クロッキー後、改めて69点のクロッキーを通してTさんにご覧いただく。一枚一枚ゆっくり丁寧に自分の身体の記憶を辿り回想するかのようにクロッキーに目を輝かせる、こんなにゆっくり見てくださる方も珍しく、私にとっては嬉しい。
今日のTさん美術モデル初体験は私の予感通り大成功であった。
| モデル Tさん 感想メール |
| 初めてのモデルの経験は緊張しましたが、私にとって、とても有意義で濃密な時間であるとともに、たくさんのことを学び得たものでもありました。 普段は意識することのない自分の身体を、ここまで思いをめぐらせて隅々にまで神経を行き届かせたのも初めてのことかもしれません。 光によって浮かび上がる身体の陰影を感じることで、いかに人間が立体のものであるかを意識せずにはいられませんでした。 ポーズについては、まったくの未熟者で手探りではありましたが、Sさんの求めているものを出来る限り最高のカタチで表現したいという一心で、ひとつひとつポーズをとらさせていただきました。 私だけを見つめ、クロッキーに没頭してゆくSさんの思いを受けて、その思いに精一杯応えるべくポーズをとり続けました。 それは、描く者と描かれる者がいて初めて生まれる不思議な一体感を持つ空間でした。 そして出来上がったクロッキーを見て、Sさんから見えていた自分はこうなんだ!という自分への再認識と、何も飾らず何もまとわない身体の美しさや潔さ、かっこよさを感じることが出来ました。 角度やヒネリや光によってこんなにも身体は表情が豊かなんですね。だんだんと力強くなるSさんのクロッキーのタッチからも、すごくパワーを感じて、心に響くものがあり感動しました。 クロッキーは静かな中に激しさが潜んでいるような、そんなもののように思います。 お互いの研ぎ澄まされた感性と集中力がなければ成り立たないような、とても精神力が必要なものだと感じました。 上手く言えませんが、描き手の思いを受けとめ、その思いに応えるために自分の限界と闘うというか、そんな感覚でした。 本当に素敵な時間をありがとうございました。 Sさんが優しく穏やかな方で、落ち着いてお話しすることが出来ました。お会いできてよかったです。 P.S.お風呂あがりに軽くマッサージやストレッチをしましたが、翌日やっぱり背中から腰、太ももが筋肉痛になりました(笑) |