モデルさんに聞く(35)〜Aさん

職業美術モデル3ヶ月目のAさん29歳、役者をメインに美術モデルでも大活躍中です。
クロッキーの後2時間にわたって取材しました。







モデルは役者に集中できます。
「Aさんは以前にもモデルの経験があったそうですが、今までのモデル活動について教えていただけますか?」
「私は自分からモデルをやろうと思ったことは一度もなくて頼まれることか多かったんです。初めてやった時は卒展のモデルを頼まれたんです。いい絵になりそうだからって言われて、そう言われると悪い気はしないのでモデルしました。」
「Aさんはどんな理由でモデルを始めたのですか?」
「正直言って収入ですね、飲食のアルバイトをやってたんですけど時間をとられるのに収入は少ない、役者の稽古の時間もとられてしまって役者の仕事に集中できないんです、不安定で。役者の仕事を支えるためにモデルを始めました。収入が安定したのでモデルをやってよかったです。収入が安定して役者に集中できるので気持ちも安定しました。家賃が払えない心境で舞台やるとなると苦しいですから。時間の都合もつけられるので有り難いです。」

モデルは度胸がつきます。
「役者で美術モデルやっている人は多いのですけど、美術モデルと役者では関連があるんですか?」
「ありますよ。役者の仕事も舞台芸術ですし美術モデルも芸術の一部になってアートに貢献できる、表現できる現場というのは共通ですね。役者としてのプライドが許せる仕事でもあります。
役者の勉強にプラスになることはやりたいんです。裸で人前で360度囲まれて大勢の前で立つというのは度胸がつくんじゃないかと思いました。
先日教室でムーヴィングやったんです。ムーヴィングの経験はなくて初めてでわからなかったんですけど、舞台で演劇やっているつもりでやったら描き手さんが「今までで一番いいムーヴィングだったよ、感動した。」って絶賛してくれました。人数も20人以上であの中でムーヴィングというのはちょっとドキドキしましたよ。
演劇をサイレントでやっているつもりでやりました。舞台、特に初日は緊張するものなので、人前でムーヴィング、しかも一人でできるんだから、これができたら怖い舞台なんてないかもしれないと思いました。
演劇は意識が開いている状態でないと見てもらえないし見ても面白くないんです。モデルを始めてから稽古の時もだいぶ気持ちが開くようになりました。リラックスして開いている状態になりやすくなりました。」

嬉しかったこと 楽しかったこと
「モデルやってて嬉しいことや楽しいことってどんなことですか?。」
「正直言って仕事が終わった時ですね、最後の20分のアラームがピピピって鳴った時です、花園のアラームですねあれは。ホントに嬉しいです、これで服が着れて帰れるって
早く服着たい早く服着たいって、仕事ありきの開放感で、どんな仕事でもそうでしょうけど。でも役者の仕事は終わった瞬間寂しいんです。嬉しい!終わった!でも寂しいって。舞台なんか泣いちゃいますね。
楽しみは出張でいろんな所に行けることです。遠くまで行けるのはいいですね、大好きです。新幹線乗ったり特急に乗ったり。ちょっとしたピクニック気分です。地方に出張した時はみんなウェルカムなんです。山の方にいった時は地元のお蕎麦ごちそうになったり帰りに温泉に案内してくださったり、海の方は海産物をおみやげに買ってくださったんです。休憩中はおまんじゅうとか御漬け物とかいろんなものを持ち寄ってくれて食べさせてくれたり。
どこでも温度とか着替えに気を遣ってくださって嫌な思いをしたことはないですね。毎月の当番が決まっていてお茶やお菓子を用意してくださったり、毎週連続の現場ではお菓子をいっぱい詰めてくださって方もいらっしゃいました。頑張ってねっていう気持ちがとても嬉しかったです。頑張ってねモデルさん、ありがとうっていう感じで。そういうこと言ってくださるとすごく嬉しいですね。頑張ろうって気持ちになります。一生懸命に描いてくれるのも頑張ろうって気持ちになりますね。今まで行ったところはみんな一生懸命に描いていました。
この前地方で一番最初のポーズを鏡の前で研究していったんです。お気に入りのポーズを気合いを入れて。ポーズの後主催者の人がすぐに来て『ものすごく良かったよ今のポーズ、それ固定でやってくださる?』って言われて固定でやったんですけど、みんなどこから見てもいいポーズだった、最高だったよって言葉が聞こえた時はすごく嬉しくてやる気がでました。描き手の満足感て伝わってくるんです。それによって人間としての誇りや達成感が生まれて気持ちよく帰れるんです。」

辛かったこと
「辛かったことはどんなことですか?」
「一番辛かったのは立ちポーズの腕上げ、20分が3回の固定ポーズでした。腕が鬱血してしまって、痺れを通り越して感覚がなくなってしまって腕が意に反して落ちてしまったんです。落ちた腕を見たらダランとしてゴムみたいになっていて。描いている人もビックリして心配して『大丈夫ですか?しばらく腕下ろしてポーズしてくださっていいですよ』って言うのですけど、そう言われると意地になって『いいえ、大丈夫です。』って言ったのですけど、固定ポーズでしまったと思いました。
20分終わってタイマー鳴ってるのに身体が動かなくてタイマーの所まで行けないんです。バタンてそこで倒れてしまって手も足も動きません。誰かがタイマー止めてくれて。
皆さんを心配させるのが嫌なので『全然大丈夫です、ちょっと痺れただけ』って言って。『痛い』なんて言ったら心配させるじゃないですか、描き手を動揺させるのは仕事に来た人間としてのプライドが許しませんし、疲れたところを見せたくないんですね。
そのポーズはポーズ決めの時いいって言われてたぶんきついだろうなって思ったんですけど、あまり褒めてくれたのでじゃあやってみるかって。喜んでもらいたいから。わざわざ東京から呼んだのにあれをやってくれなかったなんて思われたくないですから。」
「ポーズ決めであまりあれダメこれダメって言われると、描き手としても気持ちが萎えますね。」
「固定ポーズ3日間、ずっと座っているのに3日経ったら痩せてるんです。知らず知らずにうちに筋肉を使ってるんですね。20分同じポーズというのはちょっとした足のひねりが15分経つと地獄に変わります。汗ダラダラ流しながらも涼しい顔して全然平気なふりしています。痛くて眠れない時もありました、腰とかズキンズキンして。」

立ちポーズが多めです。
「Aさんの得意なポーズや身体で生かしていることはどんなことでしょうか?」
「私は瞬発力の方が強いので5分クロッキーの方が嬉しいですね。それを生かしたポーズをします。筋肉があるので結構動かないでいられるんです。頑張れば5分ポーズつま先立ちで今にも動き出しそうなポーズもできます。
立ちポーズ嫌うモデルさんもいるんですけど、私は逆に立ちポーズを多めに入れますね。全然苦じゃないんです。電車の中でも立ってますし、役者としても体力精神力鍛えてますから。立ちポーズ無理なんて言う人は役者ではいないと思うんですけど。積極的に身体に負荷を加えています。でも身体には無理させないようにしています。」

ポーズの再現で困ったこと
「4週連続で毎週一回ずつ入る仕事があったとき、先週のポーズをマークを頼りに再現するんですけど、台の位置も違うしイスの角度も違うし、セッティングって絶対同じになることないんです。いくらマークピッタリに身体を合わせても絶対ずれているってことがあるんです。『全然違う、全部描き直さなくっちゃ。困るのよね、描くのやめちゃおうかしら。』って言うから『どうしたらいいですか?』って聞いたんです。そしたら手がどうたらこうたら・・・でも全部合わせてあるんですよ。そしたら周りの人が『ブツブツ言ってんじゃないよ、人間だから変わるんだから、サッサと描け』って。険悪なムードになっちゃって。私も困ってその人の言うとおりにしたら、今度は他の人が違うって、さっきのでよかったって。
この話先輩のモデルさんにしたら『無視したらいいのよ、聞こえないふりをしてればいいのよ』って。セッティングが違ってたりしてるのにマーク通りにポーズとるとすごく変なポーズになっちゃうんです。とっても困ったことがありました。」

ケアはストレッチとトリートメント
「身体のケアはどうしていますか?」
「毎日ストレッチはしています。寝る前にもう7,8年やってます。肩こりがひどくて雑誌で見たストレッチやったんですけど、やり始めたら肩がすごく楽になったんです。それで続けています。よく眠れるし。モデルの仕事も肩や腰、首を使うので必要不可欠ですね。
エアコンとかストーブ使っているところでハダカでいると肌が乾燥するし髪もパサパサになるので気をつけてトリートメントしたりパックしたりしています。見られるということは身体にも影響がありますね。」

ポーズの研究
「ポーズはどう考えるのですか?」
「モデルの前の日や家を出て行く前にシャワー浴びたついでに鏡の前でその日の持ちポーズを2,3決めていきます。モデルを始めたばかりなので新しいポーズも研究します。休憩中にもストレッチしながら次のポーズ考えてます。ポーズしながらも考えています。」

ポーズから自分の中に感覚が生まれます。
「ポーズ中はどんな感覚でいますか?」
意識が集中している時が3割、あとは別のこと考えてます。昨日起こったことで印象的なことを頭に浮かべたり役のことを考えたり。きついポーズで汗がダラダラ出て真っ青になっちゃって身体が揺れて崩れちゃうって時はムリヤリ数えたり必死で気をそらせています。
ポーズをしている時は頭の中自由だからセリフのシーンを考えたりします。3時間思考の上でどこにでも飛んでいけます。あれっもう終わったの、なんて時もあります。ポーズをとると自分がとっている表情やポーズによって自分の中に感覚が生まれるんです。こういうポーズだったらああいう気持ちになる。こういうポーズだったらああいう気持ちになる、ポーズによって自分の中の気持ちも変わるんです。心理学でもありますね。楽しいから笑うんでなくて、笑うから楽しくなるって。このポーズをとることによって発見できる自分の中に生まれる気持ちというのがあるんですね。」

描かれた絵を見るの好きです。
「自分が描かれた絵が気になって10分休憩とかに見に行っちゃうんですよ。見られる人ははにかんだり喜んだり、さすがに見せたくないっていう人はいませんけど、そこで描き手との交流が生まれます。モデルは絵の評価はしてはいけないんですけど、あっこんな風に見えてるんだとかこっちからはこういう風に見えてたんだとか、面白いです。私と似ていたりこんな風に描いてくれたんだとか。油彩だと特に面白いですね。でも現場で一緒になったモデルさんはその辺は割り切っているみたいでピピピって鳴ったらサササって帰っちゃいました。ああそういうもんかとも思いますが、私が見たい時は見て回ってます。」

モデル同士の連帯感
「現場で他のモデルさんとも一緒になるんですね。」
「他のモデルさんにはとても親近感もっています。モデル同士のハダカのつきあいっていうか、連帯感・助け合いっていう感じです。同じ苦しい思いしていますし、ダブルポーズだと一番近くで苦しい息づかいも聞こえてくるんです。自分より年上の人だし6日間もダブルポーズで仕事していると安心感がわきます。ちょっと質問したらいろんなことを親身になって教えてくれました。全然出し惜しみしない人でそれが有り難くて。
先輩からお聞きすることはとても役に立ちます。長くやっているモデルさんは現場で大らかっていうか全然気にしていないです。何も気にしていない。時間が来てピタッと始めて、時間終わったら『ありがとうございました!』って一言言ってサッと去っていくんですね。見てカッコイイなぁって思いました。潔い(いさぎよい)です。私は最初の1ヶ月なのですごく礼儀正しくしなくちゃいけないのかなって思ってたんですけど、先輩のそういう姿見て何だこれでいいのかって。先輩にはすごく感謝してます。
先輩モデルさんの現場での凛とした態度もものすごく勉強になりました。最後はもう他人じゃないです、お姉さまって感じで。またどこかで会えるといい素敵な方でした。
モデル一筋の人はカッコイイです。みんな結婚していてモデルの仕事を理解してくれるダンナさんも素晴らしいと思います。」

コスチュームモデル
「コスチュームのモデルはどうでしたか?」
「コスチュームの仕事は2回です。事務所にはコスチューム専門のモデルさんがいるので、そちらに仕事を回すようです。コスチュームは好きなんですけどね。コスチュームのモデルは雑誌の中のモデルっていう感じで感覚が違いますね。「コスモポリタン」とか「ヴォーグ」とかのファッション雑誌です。ヌードはどちらかというと絵画の中サロメのポーズとかミロのヴィーナスとかをポーズを時々しながら感じるんですけど、コスチュームで感じるのは写真ですね。コスチュームの仕事の時はいろいろ服を用意していって、ズボンはたぶん好まれないだろうと思ってスカートの着替えを用意していったのですけど、ズボンがいいって言われちゃって。ズボンに合うジャケット用意してなかったら、上半身は黒のブラジャーの上にジャケットを羽織るポーズ、結果的にセミヌードになりました。それがいいって言われて。本当にモデルみたいだって、いやモデルなんですけど。(笑)すごく面白がってもらえました。」
「コスチュームって性格や背景を限定しますね。」

人間を描くのは奥が深い
「職業モデルさんの意識としてハダカの衣装を纏うってことを聞いたことがあるんですけど、Aさんはどうですか?」
「ハダカの心は見えていると思います。自分でハダカになると心のドアが開いているのが見えない状態です。心が見えるんなら見てくださいっていうのと見えた方が描き手の気持ちを動かすものがあるので面白いならどうぞ見てください、という気持ちです。この人のポーズ描いてよかったと仕上がってほしいなと思いますよ。
人間を描くのは奥が深い、同じポーズとっているつもりでも全然違う、生きている人間の温かさ、ドクドクしているような命のようなもの、生命力とか描いててすごく面白いと思いました。」

現場を信頼しています。
「私の行く現場では変な人っていなかったんですけど、全面的に現場を信頼していますね。私は女で現場では男の人も描いている。ハダカになるっていうことは言葉で言うとすごいことかもしれないけど、私を不安にさせるような目で見ている人はたぶんいなかったと思います。

美術モデルは副業
「私は美術モデルは副業って考えているんです。役者に集中できるのでこの仕事には感謝してますけどこれに甘えていたら役者がおろそかになってしまう。だから稽古は優先にして稽古のあるときは仕事入れません。2,3年のうちには役者メインでやりたいです。」
「モデルの仕事をイヤらしいものでなく誇りをもってやっていいんだよって応援してくれる仲間がいるのは心強いですね。モデルの仕事は回りに受け止めてくれる人がいるから自信をもって誇りを持ってできるんです。
これからはいろんな現場で何百何千人という人たちに描かれます。。その人たちに感謝して頑張りたいと思います。」


話題豊富でハキハキと質問に答えてくださったAさん、これからも様々な現場で制作者を刺激する良い仕事をたくさんしてほしいと思いました。



「モデルさんに聞く」タイトルへ

HOME