モデルさんに聞く(34)〜Nさん

美術モデルを10年あまり続けているベテランモデルのNさん。絶えず自身を磨こうと日々ポーズやモデル業について研究されている。
今日は忙しい中、時間をとっていただき美術モデルへの考えや経験談、抱負をお聞きした。







流れでなってしまった美術モデル
「Nさんはどうして美術モデルを始めたのでしょうか?」
「私は美術系の高校に行ったんです。でも自分には絵の才能がないのを悟って大学には進学しないことにして仕事を探したのですが、美術系の高校って変わっている人が多いでしょう?、いろんなバイトの面接に落ちてしまって、受かった面接が美術モデルだけだったんです。ですから積極的な意味で美術モデルになりたかったのではありません、流れでなってしまったという感じですね。やめるタイミングを逃しているうちに10年経ってしまいました。
初めての仕事先は大学でした。学生に高校の時の同級生もいたりしましたが、別に恥ずかしいことでもなかったです。緊張もしませんでした。高校でもお互いにクロッキーしていたし、自画像の課題では自分の顔を直視するが嫌だったので、ヌードの自画像を描いたんです。自分の身体は直視できたので。今でも恥ずかしいということはないですね。モデルの他に介護の仕事してますけど、入浴など裸ですから。」

美術モデルの役割は4つ
「Nさんが考えるところの美術モデルの役割はどんなことでしょうか?」
「美術モデルの役割は4つありますね。モデルが自分を表現し制作者のモチベーションと創作意欲を高めさせる『女神的役割』、制作者の表現したいものの形のために自己を徹底的に無くして、制作者の指示する形になるマネキン『人形的役割』、制作者とモデルがお互いを補い、刺激しあい、一緒に成長し、高めあう関係『共同制作者的役割』、制作活動に癒し又は、娯楽を求めている方々を楽しませる(不快にさせない)接し方をする『コンパニオン的役割』がありますが、そのような役割を踏まえてモノになったり人間性を出したりします。人間性といっても作られた人間性ですが。」

楽しかったこと ありません
「仕事で楽しかったことはありますか?」
「いいえ、それがないんです。Sさんは仕事で嬉しかったことはありますか?」
「自分自身でもすぐには思いつきませんね。嫌なことの方がすぐに思いつきます。」
「そうでしょう?私も嫌なことばっかり思い出します。嬉しかったことってあまり覚えてないでしょう?」
「なるほどね。」
「私は容姿に自信がないんです。身体の割に顔大きいとか、胸ないとか、背が高くて描きにくいとか、そんなこと言われました。私が言われやすい雰囲気なのでしょうけど、きついこと言われてもお客さんなので我慢していました。どんな人にも必ずいいところあるからと思ったりして。」
「理不尽なこと言いますね。」
「自分の容姿のマイナスの分をポーズでカバーしようと頑張ってるんです。ポーズで勝負ですね。きついポーズやります。きついポーズ専門です。きついポーズの要望にも応えていたので、指名が入ったりしてやめるタイミング逃して10年経ったという感じです。きついポーズでも表情に出ません。痺れても平気です。彫刻のモデルで大地に立っていればいいという感じで容姿に関しては吹っ切れました。」
(Nさんがポーズした彫刻作品の写真を見て)
「これはきついポーズですね、紐で吊すとかしなかったんですか?」
「何も補助なしです。腕を水平くらいに上げるポーズでは下で何かに支えられているイメージをもって耐えます。ひじの上下の筋肉を交互に使ったりして。どうやったら身体を維持できるかどうかだけ考えていました。何も考える余裕はありません。」
「でもNさんは素敵で作品も素晴らしいですね。」
「でも私でなかったらもっときれいな作品だったのにと思います。
他のモデルさんが嫌がる仕事もしましたよ。きついポーズでポーズにうるさいところとか、エライ先生の授業風景の撮影とか、舞台で裸になるという依頼もありましたけど、それはさすがにやりませんでしたけど。
私の話、仕事で嫌だったことばっかりですけどいいんですか?
大学では冬ストーブを使うんですけど、先輩のモデルさんがみんなストーブ持っていってしまうんです。真冬にストーブなし、ガタガタ震えながらポーズしてるんです。
インフルエンザかかっているのに仕事にも行かされました。ビジネスホテルに連泊して仕事こなしました。それから仕事に行く前に交通事故に遭ってしまったんです。車に轢かれてしまって。とりあえず仕事があるといって現場検証は後にして、血だらけで仕事しました。でも誰も帰っていいよって言わないんです。4時間仕事し終わってから現場検証に行きました。
火事になって教室に置いて行かれたことがあります。カルチャーセンターが入っているショッピングモールで仕事中、ポーズなかばで火災報知器が鳴って・・・結局イタズラで誤報だったのですけど、生徒さん達は自分の荷物を持ってさっさと避難してしまって、私は裸で置いていかれて、『モデルさんも服着て逃げてね〜』と一言言われただけでした。
モソモソ着替えて避難するかの〜と思ってたら、誤報だとわかり生徒さんが帰ってきたので、またモデル着に着替えて仕事を再開しました。なんとな〜くバツが悪い仕事場になりました。
他のモデルさんに失恋した人に八つ当たりされたこともあります。彫刻の仕事で天井から吊されたシュロ縄に首の後ろを引っかけて首を後ろに仰け反らすんです、立ちポーズで。」
「シュロ縄って細くてチクチク痛いですよね。」
「目眩もして、真っ直ぐ歩けなくて死ぬかもしれないと思いました。10分ポーズ5分休憩で一日おきにしてほしいと頼んだのですけど、20分でないとダメと言われました。結局一日おきでやったのですけど、休んだ分は後でやって半年続けました。これはいじめですね。私はMではないんですけど・・・。
独身男性からデートしてと1日10回電話ストーカーされたし、だから75歳以上でないとデートしません、私は。
私は言われやすいんです。でも人には怒りません、寒いとか閉めてくださいとか円満に言いますよ。」

よかったことは・・・
「でも長くやっているといいことはあるでしょう?」
「展覧会の券が貰えることくらいかな・・・。
自分がモデルして嬉しいのでなく、描き手が喜ぶのは嬉しいですよ。生徒さんが賞に入るとか、会社で嫌なことあったけど今日描けたから嬉しいと言ってる生徒さんとか、おじいさんやおばあさんに死ぬ前にこんなにキレイな人描けて嬉しいと言われた時とか、自分より相手が喜ぶ方が嬉しいんです。
それから主人に会えたのもモデルの現場です。交際1ヶ月のスピード結婚です。もちろん主人は私が美術モデルしているのを認めてくれています。何しろモデルの現場で知り合ったんですからね。」
「それは素敵な出会いですね。モデル業をパートナーや家族が認めてくれないというモデルさんが少なからずいるんですけど、幸せなことです。」
「でも高卒でモデル始めた時は親は許してくれませんでした。隠していたんですけど、事務所から仕事のことで家に電話来てバレてしまったんです。当時は携帯はまだ普及してませんでしたから。でも今は許してくれています、つい最近生きていてくれればいいっていう感じで。」

距離のとり方が難しい。
「描き手との関わりではどんなことがありましたか?」
「描き手との距離のとり方は難しいですね。馴れ合い過ぎてもいけないし、ツンケンしてもいけないし。でも楽しかったのは誕生日プレゼントもらったり、バレンタインにチョコ交換したり、人生相談したりとか。でも男性の場合勘違いされて好意をもたれたとき、お断りするとシカトしたり教室来なくなったりするので困りますね。
休憩中は描き手さんがモデルさんの体調を気遣うように、モデルもこの描き手さんはどんなポーズや作風が好きなのか探ったり、でも静かにした方がいいときもありますよね。」

日に当たらないのが一番
「Nさんはとても肌がキレイでしたね、どんなケアをしてるんですか?」
「日に当たらないのが一番です。真冬でも日傘さしています。高校生の時から一年中です。窓には紫外線防止シートを張っています。身体にも白粉とかファンデーションを塗っています。
人に身体見せていると引き締まります。腰痛防止のためいつもお腹に力入れているので、ヘルニアにもならないので良かったです。美術モデルは5年でガタが来るっていうジンクスを言われました。ストレッチもするようにしています。足や指、きつくないのに震えることがあるんです。」

持ちもの 何でも持っていきます。
「Nさんは持ち物いっぱいですね。どんなものを持ってるんですか?」
「タイマー、ミニタオル、固定ポーズ用のサージカルテープ、印鑑、領収書。モデル着は毎回変えています。その日の気分によって下着調のものから真っ赤な襦袢とか、軽いものですね。加湿器は風邪予防のため、暖房の効かないところに備えてホッカイロとかインスピレーション用の雑誌とか、塾にはホットカーペットも持っていくことがあります。ムーヴィング用にCDデッキとか。心配性なので何でも持っていきます。」

画集写真集が1000冊
「ポーズはどんな風に考えますか?」
「画集・写真集でポーズ研究してます。1000冊以上あります。ファッション雑誌や美術書を参考に綺麗なポーズを見つけだして鏡の前で実際ポーズして練習します。 固定ポーズなら本当に20分もつか、やってみます。 あとは自分が描きたいと思う『人のカタチ』を体現します。クロッキーの時はあまり考えず、今日の自分の感情やその日の筋肉や関節のコンディションで決めて流れを作っていきます。
10年モデル続けるとあらかたのことはやってしまってます。水で濡らしてビショビショ感がいいと思ったのですけど、あんまりやってもつまんないって言われました。自分でライティングしたけどそこまでは描けないよって言われてしまいました。
もらえた作品は大切にしています。映画では『モンパルナスのキキ』が好きですね。」

パリやニューヨークでモデルしたい
「今後の抱負はありますか?」
「パリやニューヨークでモデルしたいです。私は和風の顔立ちですし日本人のモデルは珍しいですから。」

若いモデルさんへ
「Nさんはベテランモデルさんですが、若いモデルさんたちに伝えたいことはありますか?」
「若い人は自分に価値があると勘違いせずにモデルの仕事をしてほしいと思います。モデルの仕事を自分の次につなげるステップにしてほしいと思います。モデルを辞める時を見極めないと自分が惨めになるということもあります。私も10年で辞められたらと思ったのですが、なかなかできなくて。
若い人に育ってほしいです。いろんな意味で自分を大事にしてほしいです。あと『初心忘れるべからず』です。」
「今日はありがとうございました。素晴らしい仕事、ずっと続けてくださいよ。」


研究熱心な向上心あふれるモデルさんです。
夢の海外モデルができるといいですね。たくさんの方に描いてほしい素敵なNさんでした。



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