モデルさんに聞く(32)〜Tさん

美術モデルを始めて間もないTさん28歳、今日はクロッキー後の急な申し出も快く容れてくださり、ポーズで消耗したエネルギーを夕食で補給しながらインタビューをした。



資格を取るためにモデルに
「Tさんはなぜ美術モデルを始めたのですか?」
T 「ヨガのインストラクターの資格を取りたかったのですが、その資格を取る費用が安くなかったんです。今まで通りにOLしていたら間に合わないかなと思いました。それからOLは5.6年やってたのですが、無理にOLだけをしているのが辛くなってしまったんです。第一の理由は資格を取る費用を稼ぎたかったんです。美術モデルは始めたばっかり、先月からなんです。」

美術モデルは瞑想的
「Tさんは描く立場でなかったから美術モデルというのは知らなかったのではないでしょうか?」
T 「はい、知らなかったです。友達が昔、美術モデルやっていたのは聞いていましたけど、それはそのままで流れてしまっているんです。彼女が『美術モデルしてみれば?』といった瞬間、その日のうちにインターネットで検索してみました。そしてSさんのページを見つけたんです。で、次の日モデル事務所に面接に来てくださいっていうことで面接に行ったらもうその次の日には美術モデルの仕事をもらって焦りました。その日にはかなり焦って緊張してほとんど眠れなかったんです。
でもいざやってみたらかなり瞑想的・・・私は瞑想の修行も長くやっているんですけど・・・それに近い感じがあって感動しました。瞑想は10日間やりますが、ある程度達成感を感じられるのは7日目くらいなんです。その瞑想のコースも4回くらいやっているのですけど、家で練習しないのでなかなか私は上達しないんです。美術モデルをしたら瞑想の感覚を感じることができました。ものすごく無防備な状態だからこそなれる客観的な自分の中の強さみたいなもの、そういうものが他人の目からハッキリわかるような感じがしました。それはどんな人や木やモノにもみんなあるものですけど、普通の生活をしていると絶対わからないものなんです。でも一回のモデルでも美術モデルするとそういうものがわかるんだと知ってすごく感動しました。こんな楽しいことでお金もらえるんかと思って。またヨガの学校入ると不定期で曜日も決まっていないので、この仕事はちょうどいいんです。」

緊張で眠れなかった
T 「初めてモデルをする前の晩は緊張して1,2時間くらいしか寝てません。舞台にはしょっちゅう出ていたし、人前に出るという意味では緊張しないというのはわかってたんですけど、裸になるというのはお風呂とかでないと日常あり得ないですよね、しかもお風呂では見られるために裸になるのではありませんし。
バレエ団にいた時には男の子がいても舞台の袖でバーッと着替えるんです。本当は男の子はそれは嫌らしいんです、目の前で着替えられるのは。でもしょうがないじゃないですか。でもモデルはそういう時の裸とは違うのですね、避けていても視界に入ってしまう裸とは。明るいところで裸をわざわざ見せるってあり得なかったことで、今までそういうことは一切考えてなかったです。身体のお手入れもしてなかったですし、あぁヤバイことを選択しちゃったなって思いました。
でも寝て起きたら勢いでしたね、ヨッシャって感じで。現場に行ったらあまり抵抗はありませんでした。人前でもしょっちゅう着替えてますし。
緊張したのは、人前で裸になるということは考えたこともなくってビックリしちゃったんです。あまり深く考えないでそんなので稼げるんだったら素敵だなぁって思って始めたんですけど。」
「今日のモデルは緊張はしなかったでしょう?」
T 「そうですね、でも緊張しなくなるのはおかしいですよね。私が緊張してブツブツ言ってた時、モデルしていた友達が言ったんですけど、彼女はずっとやってて全く緊張した覚えがないんだそうです。初めは水着姿もイヤだってくらいだから緊張したんでしょうけど、彼女は緊張したのを覚えてないんですよ。」
「忘れちゃったというのは大したことではなかったからでしょうか?」
T 「そうですね。(笑)その友人とモデルする前の日からずっと喋ってたんですけど、私がそんなに緊張していると言ったらビックリして心配になってきちゃったらしくって、『大丈夫だよぉ』って言ってくれたんですけど、大丈夫って何が大丈夫なの?なんて。でも私は自分で美術モデルするって決めたのにそんなの可笑しいですね。(笑)
でもその友達が美術モデルのこと教えてくれなかったらあり得ない話でしたね。一生美術モデルなどすることもなく過ぎていたと思います。美術を見るのは好きですけど、その時まで自分がモデルをするというのはこれっぽちも思わなかったですからね。」

温泉入るのとは違う?
T 「美術モデルしていた友達の話で面白かったのは、彼女は家族や友達と温泉にも入るのがイヤらしいんですよ、一緒に温泉に行ったことあるんですけど、プールがついている温泉でオフシーズンでそんなに混んでなかったんです。私は水着大好きで水着になったんですけど、彼女は恥ずかしいから水着になるのもイヤなんだそうです。水着になって人前に出るのもイヤなのだそうです。なのに美術モデルができたのかっていう疑問がものすごく湧いてきてしまって私聞いたんですけど、美術モデルは全然違うからっていうことなんです。親や友達と温泉はいる方が全然楽やん、て思うんだけど全然違うんですって。」
「美術モデルの方が平気というのは不思議ですね。何でなんだろう?」
T 「水着になるのも恥ずかしいという彼女ですけど、美術モデルは仕事としてモードが変わるから恥ずかしくないのだそうです。割り切れるらしいんですね。彼女は親友なのですけど、私も美術モデルやってみても、いまだ謎です。(笑)」
「相手が知っている人だからではないでしょうか?」
T 「はい、そうかもしれないです。」
「でも知っている人の前でモデルをするのはどうなんだろう?」
T 「そうか、今度聞いてみよう。(笑)」

自分自身を客観視できる
「先ほど美術モデルは瞑想する時のような感覚と言われましたが、視線を浴びて見られることへの心地よさを言う人もいます。Tさんはどうでしょうか?」
T 「私は見られる心地よさは一切ありません。なるほど、視線を浴びる心地よさを感じるのが普通ですよね。芸能人はそうでしょうし。表現する人は見られるからいいんでしょうね。でも私は昔から見られることには興味ないんです。バレエやってた時も舞台で踊ってフィットしていい感じの時があるんですよ。そういうのを後で見るとまあまあ踊れてるかなと思います。そういうのが私の中ではいい感じなんです。私は自分の中で完結するからそれでいいんです。」
「でも表現者は鑑賞者がいるから作業が成り立つんですよね。」
T 「わかった!描いている人がいる中での自分自身への客観性、見られて描かれているからこそ客観的になれる、自分と関係ないところからの視線ですから。一人だけでポーズやってたら客観性はないですよね。完全に見ている人がいるって状態になると、違うところからの自分があるんですね。モデルは全然違うところの視線が面白いんです。友達にそういたら『エエッ、私はモデルしてそんなことなかったわ』って言われましたけど。」
「いろんな感覚がありますが、それはモデルをやったことのある人だけにわかる感覚なんでしょうね。」

モデルは空っぽの感覚
T 「モデルをしながら感じる感覚は、基本的には空っぽの状態でいい感じですね。普通スッポンポンになったら、腹が立つことや悲しいこと、楽しいことなんても考えにくいですよね。そんなこと考えている場合でない自分の状態ですよね。さすがにヌードになって悲しいことも考えられないですね。」

ポーズについて
「ポーズは今日たくさんあったのですけど、どんな感じでイメージを作りましたか?」
T 「今日は体軸の動きだなということがわかったので、骨のないところを動かしてひねるように心がけました。皆さん求められることが違うのでなるべくそれに応えられるようにしています。」
「描き手のレベルもいろいろ、描き手の厳しいところヌルイところいろいろですから見極めるのも大切ですね。」
T 「モデル事務所もポーズについては何も教えてくれませんよね。」
「私としては事務所で細々教えない方がよいと思っています。あまり型に填めてしまうと個性の面白さがなくなるし、誰が来ても同じような感じになって面白くありません。身体や特性が違うのですから、ポーズの研修なんてのは無用ですね。特にクロッキーは個性が出て面白いです。それからあまり安全運転のポーズはつまらないですね。」
T 「苦しいポーズも途中で止めますとは言えないですよね。それもポーズは自分で決めたんだったら無理ですと言ってはいけませんね。バレエの固定ポーズでも始まっちゃったら『すいません』とは言えなかったですから。」

今後の抱負
「モデルとしてどんなことをしていきたいですか?」
T 「まず6ヶ月間この仕事でやっていきたいです。生活できて授業料も払えるように。すごく面白い仕事なので頑張って行きたいと思います。まだ他のモデルさんに会う機会はないんですけど、作家さんから話を聞くと面白いので、他の女の子に会いたいです。描いている女性にも会いたいです。今まで描かれたのは男性だったので、見方の違う女性の視線は楽しみです。」
「いろんな人と会えるのはモデルさんの楽しみですね。」
T 「面接だけでも面白かったです。そういう意味では恵まれているお仕事ですね、普通のOLよりも。感謝もされるし。普通OLとかはあんまり感謝されないですよ。(笑)頑張っても当然という感じで。」
「いろんな現場に当事者として入れるのは羨ましいです、見学者でなくて当事者ですから。自分の身体で表現できるのも素晴らしいです。」

コンプレックス
T 「なるほど、私自身はバレエやってて自分の身体にコンプレックスばっかりしかないです、今はそんなに感じなくなったけど。私の足は○○ちゃんみたいに長くないし、常に常に他人と比較しているのですごくコンプレックスだったんです。いいところが一つもないというくらいで。
モデルの仕事の面接して『あなたの身体の好きなところはどこ?』って聞かれて『ないです』とは言えないじゃないですか、いまだに困るんですけど、あまりに好きでない時間が長かったので。自分自身は好きなんですけど、身体の部分で言うとないんです、気になるところばかりの思い出ばかりで。身体の部位を聞かれるといまだに詰まるんです。困りますね。でも必ず聞かれるから用意してないといけないですね。(笑)」
「今日は背中のラインが魅力でしたよ。」
T 「ありがとうございます、ではそれで行きます。」
「コンプレックスのある場所が逆に素敵だったりしますね。モデルさんにそれを指摘すると驚かれますよ。」
T 「コンプレックスっていうのは自分自身で植え付けちゃっていることですから。」

周囲とのこと
T 「モデルをするのは思ったよりずっと楽しいし、興味深い仕事だと思います。この仕事に巡り会えてよかったです。タイミングもよかったです、ボーイフレンドがいるとなかなかできないですし。やりたいと思っても条件が整わなければできないですし。」
「彼やお母さんにもオープンにしているモデルさんもいますけど、Cさんは身近な家族にモデルのこと言ってますか?」
T 「親には言えないですね。母親はものすごく自分の身体にコンプレックス持っています、胸がないっていうだけで閉じこもっちゃってるんです。私がモデルのこと言ったらビックリしちゃってかわいそうな感じです。ビックリしちゃって一日くらい寝込みそうです。基本的には私はオープンなのですけどこの件に関しては・・」
「却って40歳代の年齢が上の人の方が羞恥心が強い、受けた教育や時代の倫理観からだと思います。でもモデルをしたいという気持ちの方が勝っているから、ここにモデルに来るんですね。」
T 「面白いなぁと思ったのは、所謂ヌードというのは今でもタブー的な見方がありますね。自分がモノを書いている立場として、セクシャルな文章が書けないんです。そういう意味でもヌードに関わるのは面白いです。モデルをやる女の子で小説を書く方が結構いてセクシャルな話をどんどん書いている人が多いようなんですけど、私は正反対なんでそういう意味でもこの仕事は面白いなぁと思います。ハダカって位置づけはセクシャルなものになっていますから。それは私にない要素ですから。」
「ハダカはモノではなく、エロティック要素もありますから。両方持っているから面白いんですね、設定によって全く変わりますから。設定や意識によって美にもなるし猥褻なものにもなります。そのバランスが面白いんです、完全な猥褻は嫌ですけど。。。私のクロッキー見てもいろんな感じ方をしてもらっていいと思うんです。Tさん、ぜひ長くモデルを続けてください。今日はありがとうございました」


今日のインタビュー、Cさんからは笑いが絶えずハキハキと率直な意見を言ってくださいました。その美とともに人柄も魅力、多くの人たちに描いてほしい素敵な美術モデルさんです。半年とは言わず長くモデルの仕事を続けてほしいと思いました。



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